夢ばかりなる4

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 工藤は今日も一日出かけていなかった。
 良太とスケジュールがなかなか合わない、ということもあろうが、良太はここのところそれだけではない空々しさを感じてしまう。
 絶対、俺を避けてる。
 何か、隠してるのは事実だし。
 例のホットラインについては、金輪際良太に話すつもりなどないようだ。
 外を吹き抜ける冬の風より冷たいものが吹き荒れているのは良太の心の中だった。
 
  
 

 
 
 沢村から、会わないか、とかかってきた電話で、飲み会のことを良太がついもらしたばかりに、肇とかおりとの忘年会に沢村も便乗することになってしまった。
 居酒屋で生ビールで乾杯し、盛り上がってきた三人の前に、一時間ほど遅れて沢村がやってきた。
 かおりと沢村は久しぶり、というわけですっかり意気投合し、酒豪同士飲みまくり始めた。
「お前、ちゃんと意思表示しろよ。かおりが可哀相だろ」
 面白くなさそうな顔で、肇が良太につっかかる。
「え……俺は……」
 その時初めて良太は、肇が自分とかおりのことを気に掛けてくれていたことを知った。
「なんだなんだ、そこの二人、しけた面して何こそこそしてんのさ」
 言うべき言葉がすぐには見つからず、逡巡する良太と肇を見て、沢村が割って入ってきた。
 すっかりいい調子になった沢村は、二人に絡んできたかと思えば、俺のおごりだとほざいて行きつけのクラブに三人を案内し、ヘネシーだのレミだのとボトルを入れる。
「良太ちゃん、飲んでないじゃないの」
「ちゃんとか言うな! あ、こら、そんな入れるな!」
 いきなりボトルからグラスにとくとくと酒を注ぐ沢村の手を掴んで、良太は押し戻した。
「なんだあ? 俺の酒が飲めないっての? お前、忘れたわけじゃないだろうな? お前が頼むから、番組出演OKしたんだぞ」
「あ、こんな席でそういうこと言う?」
 良太は聞き咎めてムッとする。
「お前、世のサラリーマンが何で飲めない酒を飲んで、接待なんてものをしてると思ってんだ?」
 そうくるか、と眉をひそめる良太の肩に腕を回して、沢村は酒臭い息を吹きかける。
「なあ、肇、お前ならそこんとこよおくわかってっだろ? この能天気なぼっちゃんに言って聞かせてやれよ」
 肇も良太も、野球を介して沢村とは子供の頃からのつきあいだ。
 しかも同い年だから、こうやって一緒に飲んでいるうちは沢村がプロの花形プレーヤーであれ、沢村は沢村だ。
 良太と沢村に至っては学校が違ったのに、ここまでつかず離れずというのも珍しいかもしれない。
 もっとも昔から、俺は一番強い、というようなことを豪語する沢村は、肇としてもやはり鼻持ちならない気もするのだが、それもちゃんと有限実行で活躍しているのだから、認めざるを得ない。
 しかも強いとは言ってもこうしてプライベートではえらぶるところもなく、むしろ好感が持てる。
 マスコミや世の中に知られている傲岸不遜な沢村とは違うところだ。
 だからと言って、かおりがこの男を好きになってもいいということにはならないだろう。
 例えどんないい奴であっても、かおりを球界のモテ男なんかの餌食にされてたまるか。
 肇は一人拳を握りしめていた。

 


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