春立つ風に207

back  next  top  Novels


 その夜の撮影は、バー『ギャット』の営業が終わってから始まった。
 良太は休憩に入ると、森村を引き連れて撮影スタッフや俳優陣、溝田監督や脚本家の坂口に紹介して回った。
「いよいよ良太ちゃんにも子分ができたか?」
 坂口や溝田にはからかわれたが、「よう、お前か、新人! また可愛いの入ったな」と小笠原が二人のところへやってきた。
「よろしくお願いします。小笠原さん」
「元気元気! いいなあ。ってか、俺抜きで、こいつの歓迎会やったって?」
 良太を斜に見て、小笠原が軽く文句を言った。
「しょうがないじゃないですか。打ち合わせ入ってたんだし」
「ま、いいけど。そのうち飲みいこうぜ」
 小笠原はポンポンと森村の肩を叩く。
「はいっ」
 傍にいた美亜にも紹介したが、すぐに二人の世界に突入した小笠原と美亜は、あれ以来うまくいっているようだ。
 小笠原としては自分でも言っていたように、実に真面目に、美亜の猫の保護活動や譲渡会の手伝いなどをしながら、美亜の信用を着実に得ているようだ。
 遊びに連れ出すなんてこともないからか、曲がりなりにも人気俳優とモデルの交際をマスコミもまだ嗅ぎ付けていないようだ。
「よろしく。良太ちゃん、最近オーバーワーク気味だから、そこんとこフォローしてやって」
 宇都宮に森村を紹介すると、そんなことを言ってにっこり笑った。
「はい! フォローします!」
 相変わらず森村は元気よく答えている。
「あ、そういえばさ、例のスキー合宿? 良太ちゃんいつ参加するって?」
 宇都宮が思い出したように聞いた。
「ああ、ちょっとまだわからないんですけど、部屋はあるから、決まった時に連絡くれればいいみたいですよ?」
「ふーん、なるほどお。東洋グループの綾小路邸とか、やっぱ興味あるからなあ」
「はっきりいって、バカみたいに広くて、塀がグルグル取り囲んでて、初めて行った時なんか玄関探すのもやっとでしたよ」
 そうだ、夏にも行ったんだっけ。
 あの堅苦しい園遊会。
「へえ、増々面白そうだなあ」
「そういえば、小笠原も行くって言ってたけど、美亜さんも一緒かな」
 ふと思いついて、良太は二人を振り返る。
「多分、一緒だろうね。水谷さんも」
「ですよね~」
 美亜のマネージャー水谷は、公私ともに美亜と一緒に行動するお目付け役でもあるようだ。
 ふと森村を見ると、何か言いたげな顔で良太を見た。
「どした?」
「え、あ、そのスキー合宿って、どんな人が集まるんですか? やっぱ業界の人?」
 森村に聞かれて良太は、うーん、としばし考える。
「業界関係者も多いけど、プライバシー口外したりしないってのは当然だけど、去年は俺の同級生も参加したし、森村も誰か一緒に行く人いれば誘ってみなよ」
「俺、ほんとこっちに友達いないし。あ、でも、京都で一緒に仕事した牧さんとかとはたまに連絡とってますけど」
 良太の提案に森村は小首を傾げた。


back  next  top  Novels