春立つ風に13

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 やがて三十階につくと、イケメンは開くのボタンを押していたので、良太はそそくさと先に降りた。
 エレベーターホールから徒歩数秒のところにランドエージェントコーポレーションの文字が書かれたすりガラスのドアがあった。
 だがその前には縦も横も大きな男が立ちはだかっており、しかも金髪にブルーグリーンの瞳をしていた。
 マフィアの用心棒にしては柔和にほほ笑んでいる若い男を見上げて、コートを脱いで近づいた良太は仕方なく下手な英語で用件を伝えようとした。
「私どもに何か御用でしょうか?」
 ところが良太が口を開く前に、男は丁寧にきれいな日本語で聞いてきた。
「あ、すみません、二時にお約束をしております、青山プロダクションの広瀬と申しますが」
「うかがっております。少々お待ちください」
 男はイヤホンマイクをつけているらしく、今度は英語で良太が来たことを告げると同時にドアが開いた。
 なるほど、受付嬢よりいかついガードマンの方がセキュリティ的には安全ということか。
 ってか、何? この会社って外資じゃないよな?
 確か、海老原不動産傘下の海外部門ってだけで。
 いや、今は海外相手だと社員もグローバルってわけか。
 良太は変に納得しつつ中に足を踏み入れた。
 すぐに日本人の女性が現れ、「どうぞこちらへ」と良太を促した。
 幾分ホッとした良太の背後で、先ほどのガードマンが英語で話しているのが聞こえた。
「Hi, Reo, how was your business trip?」
「Amazing!」
 ちょっと振り返るとガードマンが話しているのは先ほどのイケメンだった。
 げ、やっぱここの社員かよ!
 アメリカ人の社員が結構いるのかも知れないくらいに思いつつ、ソファセットのある部屋に通された良太は、ブリーフケースから名刺入れと書類を取り出して会う予定の社長を待った。
 ネットで仕入れた情報によると、社長は日本人のはずだ。
「お待たせしました。野口です」
 ドアが開いて入ってきたのは良太よりは年齢が上だろうか、ごく普通の日本人だ。
 と思いきや、野口の後ろから現れた大柄の男に、良太は目を見開いた。
「海老原です」
 思わず数秒、良太はガン見してしまった。
 冗談だろ? マジかよ!
 海老原って確か、CEOだった気が………。
 あんた呼ばわりして文句を言ったあのイケメンマフィアがまさかのCEO?!
 瞬時に、終わったな、と良太は心の内で溜息をついた。
「はじめてお目にかかります、青山プロダクションの広瀬と申します」
 終わったにしても、ハイさよならとはできないのが社会人というものだ。
 良太は海老原と野口に名刺を差し出し、それぞれから名刺を受け取った。
 やはり、海老原礼央、CEOの肩書がある。
「どうぞおかけください」
 名刺交換の仁義にのっとって自分の前に二人の名刺を置くと、「貴重なお時間を割いていただきありがとうございます」と一応、表面上は何ごともなかったかのように切り出した。

 


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